消化管上皮には種々の異型を伴うが,その異型を良性の反応性あるいは再生性変化と腫瘍性の異型に分けることができる.
腫瘍性異型を示す病変の中で,非浸潤性腫瘍を欧米では異形成(dysplasia)としている1).
日本では,粘膜内腫瘍を構造異型や細胞異型の違いから腺腫と癌に分けて診断している.
この日欧米間の違いを明らかにするため,欧米と日本の消化管病理医各4名で,消化管の生検と切除標本による診断が個別に行われた.
その結果,欧米の病理医は,非浸潤性の上皮内腫瘍は転移を来す可能性がない病変でlow or high grade adenoma/dysplasiaとし,
日本は浸潤の有無にかかわらず,腺腫あるいは癌と診断することが明らかになった2)~4).
さらに欧米は生検でadenoma/dysplasia,切除標本では癌と診断し,同じ症例で病理診断に乖離が生じる場合があることも判明した.
これは欧米では粘膜内に限局した細胞異型,構造異型の強い腫瘍であっても浸潤のないものは癌としないためである.
一方,日本は生検と切除標本の診断は一致していた.
癌の診断基準は浸潤ではなく,構造異型ないしは細胞異型の程度を根拠とするためである.
日欧米間での診断を統一するため世界から31名の消化管病理医が集まり,消化管粘膜内腫瘍診断のコンセンサスミーティングが1998年にウィーンで開催された.
そこで欧米のhigh grade dysplasiaは浸潤の可能性を示す病変で,
日本の非浸潤性粘膜内癌と同じもので、臨床的に内視鏡切除を含めた治療を必要とする病変であることが合意された.
その結果,Table 1に示す用語と分類が合意された5).
Category 3,4は非浸潤性上皮性腫瘍,Category 5は浸潤癌である.
Category 3はNon-invasive low-grade neoplasiaで臨床的には経過観察される病変,
Category 4(Non-invasive high-grade neoplasia)は用語法の違いから,さらにTable 1のように分けられ,
Category 4は浸潤の可能性がある病変として何らかの臨床治療が必要であるとの共通認識が得られた.
これはWHO分類にも反映され,high-grade dysplasiaは細胞学的ならびに構造から悪性とみなされるが,明らかな浸潤のないものでcarcinoma in situと同義であると定義された.
なお,Vienna分類では腫瘍と反応性異型の区別が困難なものは,Category 2. Indefinite for neoplasiaとしている.
Vienna分類の問題
Category 3,4ではlow-and high-grade adenoma/dysplasiaとされている
(陥凹あるいは平坦な粘膜内の非浸潤性腫瘍をdysplasia,隆起したものに対してadenomaとする).
しかし組織学的には何ら違いはなく,肉眼形態の違いを組織学的診断に反映させることに問題が残っている.
Vienna分類の特徴は浸潤の有無が含まれることである.
しかし,このことが本分類の最大の問題でもある.